キャダストルの情報と不動産登記制度の連繋◆佐藤義人

<<目次>> まえおき キャダストルの意義 キャダストルの組織の概要 キャダストルの情報 コンピュータによるキャダストルの文字情報 マイクロフィッシュによるキャダストルの文字情報 紙を素材とするキャダストルの文字情報 普通地籍図 特別地籍図 地籍図の調製と修正 市町村役場の キャダストルに関する情報 不動産登記カードボックスと不動産登記カード キャダストルの情報と不動産登記カードボックスの一致 キャダストルの法的使命 まとめに	キャダストルの情報 　キャダストルはその特色として、つぎの二つの情報を有しています。その一つは、登録簿、カードボックス資料などの文字による情報　documentation littérale　であり、他の一つは、地籍図　plan cadastral　です。これは線　trait、 図形　graphique、 記号　signe　などによって成り立つものです。 　この二つの情報の特色は、つぎの三つの土地調査　dénombrement foncier　の作業により、国によって作成される　établi par l'État　ところにあり、個人、地方公共団体あるいは行政当局　particuliers, les collectivités ou les administrations　は、常に更新されているその情報を、自由に入手することができます。 ➀　一筆地台帳　carte parcellaire du sol　を作製するための、測量作業と地籍図の調製作業　opération d'arpentage et de lever de plans。 ➁　税務当局　administration fiscale　に通知するための地租の賦課の基礎　assiette de l'impôt foncière、 すなわち課税規準　assiette fiscale　の策定作業。 ➂　土地の地位等級　statut des terres　の明確化と、占有者および所有者　occupants et propriétaires　の権利と義務の明確化　déterminer les droits et les devoirs　を行い、法的意義　définition juridique　を付与するための作業。 　上記のような、意義、組織そして特色を有し、量的かつ質的にきわめて重要な情報を保有しているフランスのキャダストル局　services du cadastre　は、多くの問題提起を行いつつ、時代の変化に対応しながら絶えず進化しています。 　その活動は、現在つぎのような成果をもたらしており、キャダストルの情報を求める様々な利用者　différents utilisateurs　の需要に応え、その情報的使命　mission informatique　を果たしています。 ⓐ　フランス国土の1億筆の土地を網羅する、59万葉の地籍図　590000 feuilles de plans、 ⓑ　3450万か所の公有地に関する[地籍情報の]管理　34,5millions de comptes communaux de propriétaires、 ⓒ　9670万筆の土地　96,7 millions de parcelles　に関する情報、 ⓓ　3550万個の建物　35,5 millions de locaux　に関する情報、 ⓔ　570万件のフランス全土の大字を冠する土地　5,7 millions de libellés de lieux-dits　に関する情報、 ⓕ　68万件の道路　680000 libellés de voies　に関する情報。 （『LE CADASTRE, de l'origine à nos jours』Direction Générale des Impôts /11頁） 　これらのキャダストルの情報の体裁　présentation　は、その制度の創設以来、つぎの要因　facteurs　によって幾度も改訂されてきました。その要因とは、キャダストルの情報の修正　mise à jour、 補修　réfection、 改製　rénovation　あるいは再改製　renouvellement　などと、キャダストル情報のコンピュータ化　informatisation de l'information　の各次の発展段階　différentes étapes　です。 　上記のキャダストルの情報の改訂について分類すると、原則として、つぎの三つの手法に分けることができます。 ①　ナポレオン一世時代の地籍図　plan cadastral napoléonien　の更新　mise à jour　の方法による改訂。 ②　キャダストルの改製　rénovation　の方法による改訂。 ③　キャダストルの完全な更訂　refonte complète du cadastre　を目的とする補修　réfection　の手法を用いた再改製　renouvellement　の方法による改訂（この方法は原則として、市町村などの都市部　communes urbaines　において予定されます。）。 　また、キャダストルの発展段階について、『フランスのキャダストル』は、その図式とともにつぎのように記しています。 　«On peut résumer les étapes successives de l'institution du cadastre à l'époque contemporaine par le schéma suivant : 　Indépendamment du plan cadastral, la gestion des informations cadastrales a connu une évolution particulièrement importante. » 〔試訳〕 「現代にいたるキャダストルの制度の継続的な発展段階は、つぎの図表によって要約することができる。 地籍図のほかにも、キャダストル情報の管理はとりわけ大きな進展をみた。」　（STÉPHANE LAVIGNE『LE CADASTRE DE LA FRANCE』15頁） 〔パリ市南部管轄のキャダストル局所在の合同ビル〕 　ここで、上記ⓑのコンテ　comptes　と、ⓔのリゥディ　lieux-dits　について述べておきます。キャダストルにおいては、公有地に関する地籍図は公開されない［と思われる］ため、comptes　は、あるいは公有地に関する収支計算書的なものを指すのとも思われます。 　lieux-dits　は『登記情報』418・419号の「フランス不動産登記法」では「字」と訳されており、仏和辞典においては「通り名のある場所」（『新スタンダード仏和辞典』1033頁/大修館書店）とされています。 　『フランスのキャダストル』では、　lieux-dits　について下記のように著されており、適訳の日本語は見当たらないように思われますが、実務上の観点からは、「字」よりも「大字」とするのが原語により近いのではないでしょうか。なお星野英一先生は「地名」（「フランスにおける一九五五年以降の不動産物権公示制度の改正」『民法論集』第二巻/152頁/有斐閣）と訳されます。 　« Le lieu-dit constitue un sous-ensemble de la section et représente une partie du territoire communal à laquelle, d'aprés un usage ancien, a été attribué un nom caractéristique. Il fait partie intégrante de la documentation cadastrale, ses limites et sa désignation étant indiquées sur les plans.» 〔試訳〕 「リゥディは、区の下位区分を構成し、かつ市町村の行政区の一部分を表す。そこには、昔からの使用にもとづき特有の名称が付されている。その境界と標示が、地籍図上で明示されていることから、リゥディは、キャダストルの資料の必要不可欠な部分を構成している。」 （STÉPHANE LAVIGNE『LE CADASTRE DE LA FRANCE』27頁） 　前述のようにキャダストルの情報は、①文字による情報と②地籍図ですが、前者①を素材により分類すると、Ⓐコンピュータ化された情報　documentation informatique、Ⓑ一連のマイクロフィッシュによる情報　série de documentation microfiches、Ⓒ紙による情報　documentation papier　の三種です。以下、それぞれの素材による情報について記述します。
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